愛里紗は耳を疑うあまり、丸くなった目を向ける。



「えっ……」

「私も愛里紗もそれぞれ新しい道を歩んでいるんだよ。愛里紗には愛してくれる理玖くんがいる。…でも、私には翔くんしかいない」


「咲……」

「だからお願い。翔くんの事は忘れて欲しい。……自分勝手で申し訳ないけど、後悔するくらい反省してるから、今までの事も許して欲しい」



咲はそう言って隣に立つ愛里紗に頭を下げた。

だが、愛里紗は身勝手な思考を押し進める咲が許せなくなると、全身の脈が暴れ出すくらい大きな鼓動に包まれた。



ドクン……ドクン……



咲…。
何言ってるの。


私が理玖との交際を思い悩んでいた時、咲は自分の恋を守る為に理玖を勧めていたの?
谷崎くんとの過去を背負う私が理玖と付き合えば、不意に再会しても互いに諦めがつくから?


何……。
全て自分の幸せの為?


バイト先で自分が谷崎くんの彼女だと知らしめる為に、わざわざ私の目の前で紹介したり手を繋いだりしたの?



最低……。
理玖は咲の盾じゃない。



万が一、谷崎くんに会えたとしても先々を決めるのは咲じゃない。
私が谷崎くんに会いたがっていたのを知っていて裏切ったんだから、悪意しか感じられない。



私自身が裏切られてるのに、反省してるから許してと言われても簡単に許せる訳がない。