私達は中庭のベンチに腰を下ろす。
重い口がなかなか開けず、僅かに聞こえる周囲の音だけを耳で拾っている状態に。
普段の自分達なら絶え間なく笑い合っているのに、今は二人して口を閉ざしている。
特に喧嘩をしてる訳でもないのに微妙な空気が流れているせいか、まるで恋人が別れ話をしているような雰囲気に。
谷崎くんと何かあったのかな…。
なんて思いつつも、心に激震が走っているせいか、人の気持ちを気にしているどころではない。
「……あのね、愛里紗に言ってなかった事がある」
先に口を開いたのは咲の方だった。
「えっ……」
「今から大事な話をするから、最後まで話を聞いてくれる?」
「あっ………うん。何かな」
咲はベンチに腰をかけてから2分後くらいに話を始めた。
この時点では、昨日店に訪れた事や、場の悪いところを見せてしまった件についてだと思っていた。
だが、しなだれた髪で隠れ気味の口元から少し声を震わせて話し始めると、愛里紗の想定外の話を口にする。
「あれは…、中二に上がる直前の出来事だった」
咲が中学生の頃の話を始めた時点で、谷崎くんの話をするんだなと察して返事をするように頭を頷かせた。