どうして、こんなに胸が苦しいのかな。
咲が谷崎くんと付き合ってるって知っただけなのに、苦しくなる理由がわからない。



愛里紗と咲のやりとりを瞳に映したまま暫く口を黙らせていた翔だったが、咲の言動が癪に障った。

普段はほとんど感情を覗かせない翔が嫌気に満ち溢れた表情に様変わりすると、不機嫌に咲の手を振り払って厨房の方へと足を進める。



「翔くんっ………」



咲は顔面蒼白のまま翔のうしろ姿を目でなぞるように二、三歩追いかけた。






シンと静まり返った場に取り残された、愛里紗と咲。
二人の間には気まずい空気が流れる。


長く続く沈黙の時間は、それぞれの思いが交錯していた。



愛里紗は頭の中の整理がつかず居ても立っても居られなくなってしまい、椅子の上に置いていた学生鞄を手に持つ。



「もう……、帰るね」

「…ごめん。明日話そう」



愛里紗は意気消沈したまま咲を横を通り抜け、重いガラス扉を開けて店を後にした。


先程まで愛里紗が座っていた座席には、木村から受け取った英語のノートといちごの飴が重ねて置いてある。