彼は拳をギュッと握りしめると、勢いよく太ももに叩きつけた。



「母さんが卒業を機に家を出ようって言い出して…。父さんとは同じ町に暮らしたくないって。それどころか、父さんには二度と会うなって言うんだ」

「………」


「俺はこの街が好きだから離れたくないのに…。母さんは俺の気持ちなんかちっとも考えてくれねーよ」



俯きながら力強く気持ちを吐き出す彼の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が次々とこぼれ落ちている。

彼の深い悲しみが隣に座る私にも伝わる。
黙って話を聞いてるうちに自然と目頭が熱くなっていく。



私は上着のポケットに入れているハンカチを手に取ると、彼の瞳から溢れる涙をハンカチに染み込ませた。