咲はショックで言葉を失わせていると、翔はベンチに置いている手荷物を持ってその場を立ち上がり、公園の出口へと歩き始めた。



翔くん……。
私はいま片想いを始めてからの四年分の想いを込めてキスしたんだよ。

恋人同士の私達が初めて唇を交わしたのに、何とも思わないの。
一切感情が揺れ動かなかったの…?



咲は平然とした態度を取り続ける翔にショックを受けたまま、背中に向かって叫んだ。



「翔くん!」



翔は背中から怒鳴り声が届くとハッと振り返る。
咲は溢れんばかりの思いに耐えきれなくなり、瞳から光り輝く涙を滴らせた。



「いま私がキスをしたのに、翔くんは何とも思わないの?私達、付き合ってからもう半年なんだよ。私だって感情のある人間。翔くんの隣にいるだけの人形じゃないんだよっ……」



咲は力強くそう言ったが、惨敗要素だけが取り残されているから返事を聞くのが怖くなり、滴る涙を右腕で拭いながら走って公園を出て行った。



悔しくて苦しくて切なくてやりきれないけど、それが私の甘くてほろ苦いファーストキスの味だった。