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ーーいま何時くらいだろう…。
空を見上げると、暗闇の隙間からパラパラと小雨が降っている。
道路脇の街灯や、車道を行き交う車、そして住宅明かりが歩道を歩く私と彼を照らしている。
時たま何処かの家の夕食の香りが鼻に漂う。
三月は暦上では春だけど、朝晩は真冬のように冷え込む。
暖かい日中に家を出たから軽装のまま。
お腹はグゥーっと音を立てている。
小学六年生の私達は、子供同士でこんなに夜遅くに出歩くのは初めて。
私達の両親は、遅い時間まで帰宅しない我が子を近所中探し回っているに違いない。
でも、大人の心配とは裏腹に、私達は掴まらぬように警戒しながら身を潜めていた。
「ここならきっと見つからないよ」
彼はそう言うと、毎日のように遊びに来ている神社の本殿裏に周り、雨が降りかからない軒下に移動して建物の一部に腰を下ろした。
二人とも服に付着している水滴を手でパッパと軽く振り払う。
落ち着いたタイミングを見計らうと、雨音のBGMに被せるように言った。
「ねぇ、谷崎くんはどうして引っ越しする事になったの?」
「俺んち、両親が離婚するんだ…」
瞼を落として悲しみの表情を浮かべる彼の瞳が、私の心を窮屈にさせる。
ーー今日、谷崎くんが他の街へ引っ越す日だった。
でも、彼は長年住んでいる街を出るのが嫌で、引っ越し準備に取り掛かっている母親の目を盗んで、私と一緒に街中のあちこちに逃げ回った。
そして、最終的に行き着いたのは、二人の思い出がたっぷり詰まっている街の小さな神社だった。