愛里紗は目を凝視させたまま胸の前で手をクロスさせているのだが、理玖の顔がググっと20センチ手前まで迫ってきた時。
ハジメテを奪われてしまうのではと、必死に身を守り抜こうとしている愛里紗と…。
伏せ目がちで愛里紗の顔に手を近付けて来た理玖は…。
二人同時に別々の言葉を発した。
「愛里紗、髪にゴミがついて…」
「私っ……。じらしてるとかそんなんじゃなくて……。いっ、いま生理中だから」
愛里紗の髪に付着しているゴミをつまんだ理玖は、ガッシリ身を固めたまま突然訳わからない事を言い出した愛里紗に言葉を失う。
えっ………。
髪にゴミ?
ゴミって、一体何の事?
愛里紗は理玖と異なる言葉を聞き取った瞬間、頭が真っ白に…。
頻りに繰り返されていた悪魔の囁きは、現実と引き換えに消えた。
自爆発言をしてしまった私はヘビー級の色ボケを味わう事に。
おかしいと疑っていた理玖は正常者であり…。
おかしくないと思っていた自分は異常者であった。
失態は非常に悔やまれるところだ。
よくよく考えてみると、一年以上も私だけをまっしぐらに待ち続けていてくれた理玖が、まだ付き合って三日目に食らいつくなど考えにくい。
悪魔の囁きに翻弄され過ぎた。
一瞬理玖は狼の香りだと思ってしまったけど、やっぱり柔軟剤の香りしかしない。
本当の地獄の苦しみを味わうのは実にこれから。
もう取り返しはつかない。
時、既に遅し……。