愛里紗のしどろもどろな言動に、理玖は首を傾けた。



「もしかして、俺達が付き合い始めた事をまだおばさんに報告してないの?」

「…ううん、もう話したんだけど。さすがに事前連絡も無しに来るのはマズイから、また今度ね」


「そうだな。…じゃあ、ちょっと遠回りしていこうか」



嘘に騙されてくれた理玖は、自宅に上がる事をあっさり諦めてくれた。



母親は専業主婦。
出張が多い父親はほとんど家に帰って来ないし、私は一人っ子だから母が一人の時間はたっぷりある。


理玖は私の自宅でお留守番した事を忘れてしまったのだろうか……。
家はいつ来客があっても簡単に招き入れられるほど掃除が行き届いているから、逆に来ちゃいけない日などない。

気が変わる前にと思い、彼の手をグイグイと引いて再び近所を歩き回る事にした。





愛里紗の自宅から5分ほど歩き、イチョウの葉が散らばる狭々しい歩道で理玖は愛里紗の気を引くように手を二回引くと、ある場所に人差し指を向けた。



「お!あったあった。あの神社で軽く参拝していかない?俺達の今後の恋愛について」

「え…。参拝?」



理玖の指をさした先の神社に目を止めると、愛里紗に衝撃が走った。



ドクン…



まるで身体の外まで飛び出してしまいそうな胸の衝撃とセットで、古傷が抉られるような苦しみに襲われた。



ーー彼が今後の恋愛について参拝しようとしていた神社。

そこは、小学六年生の時に谷崎くんと毎日一緒に過ごした二人だけの特別な場所。



愛里紗が神社が視界に入った途端、心の奥底にヒッソリと眠っていた記憶が少しずつ呼び覚まされていった。