ノープランでただ手を繋いで街を歩くだけのシンプルデート。

時たま景色を眺めて、入った事のない道を歩いて遠回りしながら近所を散歩していると、私の暮らす学区内に入った。


塾から送ってくれたコースに差し掛かり、二つ先の信号の右側に私の自宅が見える。
理玖と再び付き合い始めてからこの道を歩くのは今日が初めて。




自宅の前を通りすがろうとしていたその時、彼は私の自宅前で家に指を差した。



「せっかくここまで来たし、今からお前んち寄ってく?」

「……それ、あんたが言うセリフじゃないでしょ。しかも理玖が急に来たらお母さんがビックリしちゃうよ」


「お前んちに行く度に、おばさんはいつも家に上がれ上がれって言ってくれてるのに?」

「おっ……お母さんにだって、気持ちの準備とか部屋の片付けとか…色々あるんだよ」



愛里紗は母親を盾にして、首を小刻みに横に振りながら自宅に入る事を頑なに拒んだ。



デートの目的地はないと言いつつも、実は頭の中はすでに計算尽くしだったかもしれない。

たまたま通りがかったように見せて、私の家に上がり込んで、部屋でハジメテを奪おうという魂胆では。



咲のセリフにすっかり洗脳されてしまった愛里紗は、警戒するあまり冷や汗を滝のように流していた。
頭の中に棲み続ける悪魔を追い払うまで、まだまだ時間がかかりそうな予感がしてならない。