妄想してしまっているせいか、まるで無意識に迷い込んでしまった迷路で迷子になってしまったかのよう。



もーっ、私のバカバカ!
お願いだから早く頭の中から消えてよ。
勝手にスイッチオンしないでよ。

咲が帰り道で変な話を吹き込むから、理玖を過剰に意識しちゃうじゃん。



やっば……。
繋いでる手が緊張で汗ばみ始めた。
心の中はどうにか隠す事が出来るけど、身体が素直に反応したら異変に気付かれちゃうよ。



そうだ!
緊張した時は深呼吸をして一旦心を落ち着かせるのがいいかも。
ナイスアイデア。

せーのっ。
スーハー スーハー…



ところが、理玖は隣で急に深呼吸を始めた愛里紗に不審に思って困惑した表情を向けた。



「あのさ。…ちょっと過呼吸気味だけど、具合悪い?」

「何ともないよ。ただ、合唱コンクールが近付いてるから、ちょっと深呼吸の練習をしてるだけ」


「え……、何でそれを今?」



苦しまみれの嘘に理玖の眉間のシワが更に深く刻み込まれていく。



…だよね。
彼氏と二人で歩いてる最中に深呼吸の練習をしてるなんて、ちょっと無理があるよね。
自分でもおかしいと思ってた。



理玖は駅を出てバスロータリーに差し掛かると話題を変えた。



「今日塾は休みだし特に約束とかないよね?」

「うん…、予定はないけど。どこへ行くの?」


「お前とデート!」

「えっ!いきなり?」


「俺がデートに行きたいから行くの!」



まるでだだっ子のようにそう言い、頬を赤く染めながらもニカっと笑う。
少しマイペースなところは中学の頃から変わらないね。