理玖の思うがままに手を引かれながら、何となく歩いていたけど…。
一歩ずつ足を進ませるにつれて、咲が言っていた言葉を思い出す。
『愛里紗のハジメテの相手は理玖くんかもね。なんか、ドキドキしちゃうね』
敏感に反応した瞬間、心臓をバクバクさせながら理玖の顔を隣からそろりと見上げる。
だが、目線は吸い込まれるように二日前に重ねたばかりの唇の方へ。
まだないから。
まだ、ハジメテはないから…。
まだまだずっと先だから……。
頭の中にこびり付いている言葉に言い被せるかのように、新たな呪文を唱えてみたけど。
『理玖くんは愛里紗を愛してくれているから、きっと怖くないよ』
……残念ながら、効力を発揮しない私の呪文は、心の中でしきりに囁き続ける悪魔には効かないようだ。