高台に位置する学校周辺には景色を遮るような建物は建っていない。
360度空が見渡せるパノラマは、まるでプラネタリウムのような絶景スポット。



夕空グラデーションが進む空と山に吸い込まれていく夕陽。
山に触りそうなほど低く薄っぺらい雲は薄暗い影を帯びている。
少し右手に目を向けると、逆行を浴びている遠方の富士山は影絵のように見えた。


彼が私の為に見せてくれた景色は、1分1秒毎に新しい姿を生み出している。



貸し切り状態の屋上。
私は学園祭の終了を告げる校内アナウンスが耳に入らないほど、広大な夕空に心を奪われていた。



「キレイ…」



思わず呟いた。
圧倒されるほど美しい空色を見たまま靡いている髪を耳にかける。


ビュンビュンと吹きつけてくる風は先程の踊り場ほどは強くはないけど、パタパタと足に叩きつけているスカートは、まるで宙ぶらりんな心を叩き起すかのよう吹き荒れている。



「実はココ、お気に入りの場所なんだ。お前にこの景色を見せるチャンスが今日しかないから、どうしても見せたくて」



理玖はそう言うと、短い髪を靡かせながら得意げにニカッと笑う。



私なんて校舎内を駆け巡った時に、卒業式の日のファーストキスの事を思い出しちゃったよ。



理玖はこの絶景を見せる為に何度も時間を確認していたんだね。
私が学園祭の今日しか学校に入れないから、たった一度きりのチャンスに賭けていたんだね。


私と一緒に夕空を見る為に。
そして、同じ感動を味わう為に……。