理玖は扉の小窓から差し込む光を浴びながら屋上扉のドアノブに手をかけて押し開けた。

すると、直視出来ないほどの眩しい光と唸るような激流の風がどっと校舎へ流れ込む。
愛里紗は光と風を遮るように手の甲を目の前にかざした。



風はビュウっと音を立てる。
毛先は針のように鋭く靡かせて、服は波打つようにパタパタとはためかせて踊り場で佇んでいる二人へと襲いかかる。


理玖は繋いでる手を離すと、逆光を浴びたまま愛里紗の背後に回って手で目隠しをした。



「えっ……。何なに?」

「これから特別なものを見せてあげる。そのまま前に進んで」


「この先に何かあるの?」

「いいから、俺を信じて」



視界は彼の指の隙間から僅かな光が差し込む程度。
だから彼の言葉を信じて前に進むしかない。



目を閉じて一歩……、そしてまた一歩。
暗闇の世界ではあるけど、不思議と彼の香りが緊張を和らげてくれる。

風を浴びる感触とビュウビュウといった音に包まれながらも、彼と同じ歩調で先を進む。



「もう、いいよ」



彼が両手を離したのは、屋上の入り口から二十七歩目を歩いたところ。

視界が遮られていたせいか、やけに長く歩いたように思えたけど、実際は大した距離じゃない。



彼のゴーサインと共に瞑っていた目をゆっくり開けていくと……。

そこには、青空から沈み行く夕陽を彩るオレンジ色のグラデーションのサンセットの景色が目に飛び込んできた。