ーーこの学校には、もう二度と来る事はないと思っていた。


校舎は学校見学の時でしか見る機会がなかったけど、今は来場客の合間をスルリと潜り抜け、彼に手を引かれたままよく知らない校舎内を全力で駆け抜けている。



途中、彼の歩幅に追い付けなくて足がもつれて何度も転びそうになった。


彼は何度か振り返りつつも、足を止める事なく前に進める。
私はただただ彼の大きな背中を見つめたまま手を引かれるだけ。


走り疲れて呼吸は辛く乱れる。
それでも彼は足を止めない。




教室…

音楽室前……

階段………



数々の教室前を駆け抜けて行く最中、以前二人で経験したような光景が一瞬頭をよぎった。



そう……。
あれは、今でも忘れはしない中学校の卒業式の日。

引きずられるように足を交差して走っているうちに、いつしかあの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。