愛里紗は胸のザワメキと葛藤するあまり、いつしか無意識に虚ろな表情を浮かべていた。

一方、先程まで目を輝かせながら理玖との恋を応援していた咲だが、次第に表情が曇り始める。

心を決めて拳が握られると、顔を見上げて少し前のめりになって口を開いた。



「……あのね、愛里紗。実は大事な話がっ…」
キーン コーン カーン コーン



咲の話を遮るかのように五時間目の始まりを知らせる予鈴のチャイムが鳴った。
愛里紗は腕時計に目を向ける。



「あっ…、そろそろ時間。…で、大事な話って?」

「……あ…ううん。何でもない」


「早く教室に戻ろう!五時間目の授業に間に合わなくなっちゃう。行こ!」

「うっ、…うん」



愛里紗と咲はすくっと立ち上がり、屋上を後にした。



咲には大事な話があった。
屋上に来る前から話さなければいけないと思っていたが、タイミングが合わなくて伝えるきっかけを失ってしまった。


咲は教室に一直線に向かう愛里紗の背中を追いかけながら考えてた。
次はいつこの話を切り出すかどうかを……。