ーー初恋。

それは、今日初めて聞いた胸の内。

谷崎くんとのほろ苦い初恋を経験してきたからこそ、その意味が身に染みるほど理解している。



理玖は愛里紗の肩から手を離すと、過去の自分を頭に思い描く。



「中学に進学したての頃、教室に一番乗りして新鮮な空気を吸う為に窓を開けると、見下ろした先には暗い顔して登校して来る奴の姿があった。……それが、お前」

「……あ、うん」


「最初はその原因を知る術がなかったから、『学校が嫌いなのかな』とか、『人に言えないような悩みを抱えているのか』とか、色んな事を思い巡らせた」

「………」



「毎日考えているうちに、俺なら腹の底から笑わせられるんじゃないかって…。同じクラスになると笑顔を失った原因を知った。心から笑おうとしないのは、好きな奴が忘れられなかったという事をね」

「……う…そ。知ってたの?」



理玖は無言でコクンと頷く。