理玖はゆっくり腕を解いて愛里紗の身体を向かい合わせにすると、両親指の腹で涙を拭い両肩を掴んで目線を合わせた。



涙で目が霞んでいても、彼のまつ毛一本一本がよく見える。
柔軟剤が染み込んだ服の香りだって、彼自身の香りだって漂ってくる。


冗談で唇を近付けてきた誕生日ほどは接近してないけど、あの日を連想させてしまうほど熱い眼差しを向けている。



「俺はお前の笑顔が好きだよ」



彼は今日に限らず何度か『好きだ』と口にしてくれた。


初めて告白してくれた時だって。
肩を並べて歩いていた時に、ぶつかり合った手が握り締められた時だって。



でも……。
可愛い子がいれば『可愛い』って言っちゃうし、優しくしてもらったら『優しいね』って言う。

思った事を口にしちゃうから、好意があると勘違いされる事が度々あった。


誰だって自分の長所や性格を褒められたら、高揚感に浸れるし、特別に気にかけてもらったようで嬉しい。



それは女子だけに留まらず、男子にだって『お前スゲェな』とか『カッケェな』とか『やっぱり頼りになるな』とか…。

日常的に人を立てている部分があるからこそ、本音と冗談の境目がわからない時がある。