…でも、やっぱり嫌だ。
本当は行って欲しくない。


留学したら、日常的に会ったり、冗談を言ってふざけ合ったり、時にはバカみたいにはしゃいだり出来なくなる。

塾を辞めるだけでもショックなのに、日本からいなくなるなんて。
最近ようやく友達として再スタートを切ったばかりなのに……。



理玖の事を考えていたら、今まで伝えてくれた言葉が鮮明に蘇ってきた。



『俺は久しぶりに会えて嬉しいのに、お前は俺から逃げてばかり』

『お前の誕生日、忘れてねぇから』

『明日から毎日愛里紗に会えなくなるから、超寂しい』

『秋なんだから上着くらい持って来いよ。女なんだから、もうちょっと自分の体に気ィ使って』



一つ一つの言葉を思い返してみると、私を大切に思う言葉ばかり。
あの時は聞き過ごしていた言葉が、今は胸に響いてくる。



バカ……。
何で日本から居なくなっちゃうのよ。



愛里紗は留学というスイッチが押された瞬間、心の中でひっそりと眠っていた感情に新たな局面を迎えた。



「ありがとな。こうやって自分と向き合う事が出来たのは全部お前のお…陰……」



そう言いながらゆっくり振り返った理玖は、愛里紗の顔を見るなり言葉を失わせた。

何故なら、月光を浴びている愛里紗の瞳からは、ダイヤモンドのようにキラキラと輝せている涙が頬へと流れ落ちているから。