ーー散々なテスト結果を手にして、帰宅してから軽く母親に怒られた日の夜。

それまで心穏やかに過ごしていた愛里紗に、驚愕的な事件が起こった。





塾の帰り道の公園前。
辺りは暗闇に包まれている中、理玖はいつものように私を家まで送ってくれている。


笑顔の合間に溜め息をつく彼に、少し異変を感じていた。
最近は時間を共有する事が増えたせいか、些細な変化でも気付くように……。



交際していた当時には気付かなかったような、癖や仕草。

笑う時に腕を組んだり。
照れた時に髪をクシャクシャしたり。
言分を伝える時は、人の頭をポンポン二回軽く叩いてきたり。

頬に現れる小さなえくぼだって、不思議と目線が吸い込まれてしまう。


中学生当時は、気も止めなかったような何気ない仕草が心を小さく騒ぎ立てている。




理玖は突然早足で三歩進んでからゆっくりと振り返り、こう言った。



「……俺、塾辞める。今月いっぱいで」



何の予兆もなく突然告げられた言葉。
真っ直ぐに見つめてくる切ない眼差しは、目の前の私に現実を知らしめている。