理玖は私服姿。
高校は近所という事もあって、帰宅時間も早い。
電車を乗り継いで遠方まで通学している私とは雲泥の差。

だから、長時間私の自宅で帰りを待っていた可能性もある。



「お前んちまで問題集を届けに来たらお前はまだ帰って来てないし、おばさんは『やだわ。醤油買い忘れちゃった。もうすぐ愛里紗が帰って来るからお留守番お願いね。あの子は家の鍵を持ってないのよ』とか言って、俺を留守番させて買い物に行っちゃうし」



理玖は頭をポリポリかいて困り果てた顔。
一方の愛里紗は、驚くあまり開いた口が塞がらない。



お母さん、完全にどうかしてる。

最近、理玖と顔を合わせる機会がグッと増えたのは分かるんだけど、問題集を届けに来たついでに留守番をお願いするなんて…。

有り得ない。
いま私達付き合ってる訳でもないのに。



だけど、鍵を持たない私の為に留守番していてくれた事に違いない。
その場で素直に断ればいいものの、バカみたいに母のお願い事を聞いちゃって。



愛里紗は申し訳なく思い、頭上で両手を合わせた。



「ごめんっ。問題集をわざわざ届けてくれてありがとね。しかも、お留守番まで…」

「いーよ。テレビを観て暇潰ししてたし。問題集は机の上に置いといたからもう帰るわ」



理玖は咲の笑顔をチラッと見た後、そのまま玄関に降りようとする素振りを見せたが、ふと何かを思ったようにピタリと足を止めた。