ピンポーン……
理玖に自宅まで送ってもらい、玄関でいつものようにインターフォンを鳴らすと…。
「はい」
およそ3秒ほどで母の声がインターフォン越しから聞こえた。
インターフォンを前にして、『ただいま』と言おうとして口を開かせた瞬間……。
理玖はすかさず私を肩でどかして、娘の私よりも先にインターフォンに向かって言った。
「愛里紗の母ちゃ〜ん、俺。俺だよ、オレオレ!」
私の母に対して半分オレオレ詐欺風。
人懐っこいとはいえ自分の家じゃないのに……。
凄いね、その根性。
まるで田舎の小学生みたい。
声の主が理玖だと気付いた母は、笑いながらインターフォン越しに答える。
「ウフフ。理玖くんでしょ。今日も愛里紗を送ってくれてありがとね。いま扉を開けるから待っててね」
母は暫くしてから玄関の扉を開けると、多めに作った夕飯のおかずをいつものように理玖に手渡す。
毎度の事ながらバカみたいに喜んだ理玖は、私達に見送られながら手を振り、暗闇の向こうへと姿を消して行った。
母は理玖の姿を見届けながら、目尻を下げて言った。
「理玖くんって、明るくて本当にかわいいわね」
「ずっと成長しない少年だよ。あれは永遠の小学生だね」
理玖が毎日のように笑顔のおすそ分けをしてくれるから、今日も何気ない平和な一日を当たり前のように過ごしていた。