ーーある日の朝。

愛里紗は通勤通学ラッシュの時間帯で多くの乗客が行き交う最寄り駅構内でホームに向かっていると、改札を越えたところで人と肩がぶつかった。


ドンッ…



「痛っっ…」



衝撃によって手離してしまったファスナー全開のカバンの中身がコンクリートの床に散乱した挙句、派手に尻もちをついた。

すると、ぶつかってきた男性は背後から速やかに声をかける。



「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」



人々が行き交う階段脇で視線が集中する中、愛里紗は焦りながら散らばった荷物を手早くかき集める。



「あっ、はい。でも、荷物が…」



そう言って相手に頭頂部で返事をしながら、荷物をカバンの中に突っ込んだ。
すると、ぶつかった相手も背中合わせで散乱した荷物を一緒に拾い始める。

全て回収し終えると、教科書やノートをトントンと床で綺麗に揃えてから、愛里紗の目の前に立って拾った荷物を差し出した。