翔は咲の両腕から手を離すと、咲の心境に気付かぬまま口を開いた。
「じゃあ、気を付けて帰れよ。……またな」
「…うん、バイバイ」
一瞬、抱きしめてくれるかもしれないと淡い期待を寄せていた咲の願いも虚しく、翔は一人静かに暗闇へと消えて行く。
咲は二人の心の温度差が浮き彫りになると、孤独感に拍車がかかった。
私、勇気を出したのに……。
彼女の私が抱きしめても何も感じないの?
私達付き合ってるんだよね。
素っ気ない態度を取られ続けている私だって、気持ちを跳ね返され続けていたら悲しいんだよ。
一体、いつまで片想いなんだろう……。
咲は小さくなっていく翔の背中を見つめながら、気持ちが置いてけぼりになっている自分が不憫に思えて涙が溢れた。
一人で佇んでいた後も、翔は一度も振り返らない。
時間をかけても一向に縮まらないこの距離感が、咲の向上心を押し潰していく。