ところが、翔は背後から抱きしめられた衝撃によって、まるでいま目を覚ましたかのようにびっくりして目を見開いた。
咲はぎゅっと目を結んだまま、徐々に腕の力を加えていく。

翔は咲の方へとゆっくり振り返り、こう言った。



「……いきなり抱きついてきて、どうしたの?」



眉一つ動かさずに何事も無かったかのような冷静な口調。
咲の両腕を解いて振り返り、両腕に手を添えて咲の目線まで屈み首を傾けた。



「ん?」

「…ううん、何でもない」



咲は首を横に振って、今にも消えそうなくらい小さな声でそう呟いた。



まるで妹扱い。
意を決して抱きしめても、彼の感情は微動だにしない。

だから、私の心は更に孤独へと追いやられていく。
意図的でも無意識でもエンストばかりの恋が悔しくて堪らない。



咲は翔に腕を解かれた瞬間から、心の中は身が凍りそうなほど冷たい猛吹雪に襲われていた。