もう、暫く彼の表情変化を見ていない。
最後に変化があったのは、ノグちゃんと渋谷で会った時。
あの時は人が変わってしまったかのように嬉しそうに喋り、懐かしそうな目つきで彼女を見ていた。

彼と出会ってから初めて見た別の一面。
あれが本来の姿かどうかはわからない。


でも、彼はあの日を境に感情を消した。
そして、抜け殻だけを置き去りにしてしまったかのように塞ぎ込んでいる。




翔くん……。
私、もう限界だよ。



一向に満たされぬ愛情により寂しさに溺れた咲は、家路へ向かう翔の背中に駆け寄って後ろからギュッと抱きついた。



少しでいい。
少しだけでいいから強く抱きしめて。


お願い。
ほんの一瞬だけでもいいから、乾ききった心を潤して欲しい。


たった3秒でいいから。
背中に手を回してくれたら、その一瞬の思い出をしっかり胸に焼き付けてずっと我慢していくから。


バカみたいでしょ。
呆れちゃうでしょ。

だけど、翔くんが好きで仕方ないの。



咲は切実な願いを込めて翔の背中に腕を回した。