✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



「翔くん、そろそろ中間テストの時期だよね。もう勉強してる?」

「……」


「翔くん?」

「……」


「………翔…くん?」

「……ごめん。ボーッとしてた。いま何て言ったの?」



ーー夏休みが明けて間もなく一ヶ月が経とうとしている、土曜日の午前中。

白いミニワンピースを着てオシャレをして来た咲は、翔と地元でデートをしている。




近所で待ち合わせた後は雑貨屋さんを周り、ハンバーグが美味しいと有名なお店でランチ。
その後は書店に寄り、今は紅茶専門店でお茶をしている。



翔くんは話をしても返事があったりなかったり…。
特にここ最近はずっとそう。
何処か遠くを見つめているような目つきで、私の言葉が耳に入っていかない。

それは、ノグちゃんと渋谷で会った直後から始まった。



「私達夕方からバイトだね。時間があるから一度家に帰る?」

「……あぁ、そうしよう」



翔はテーブルから伝票を持ち上げて席を立ち、間髪入れずに返事をした。



現在の時刻は14時15分。
バイト開始時刻は17時から。

勤務時間まで間があるのに、彼は空いてる時間をどこかで潰そうかとか気を利かせる事もなく一人先にレジへと向かった。



一人席に取り残された私。
振り返る事のない彼。

そして、テーブルの下で静かに握りしめる拳。



いま私達の間に不協和音が生じている。
それだけは紛れもない事実。