しかし、いざ蓋を開けてみると、咲は幸せどころか厳しい現実に苦しんでいる。
そんな内情が伝わるなり、一方的に咲ばかりを責め立てていた自分を反省する。



一口しか飲んでいない紅茶はすっかり冷めきっていた。
咲は伝えたい事を全て話し終えても、後戻りできない現実に不安と恐怖を覚える。

息が詰まるような状況下、耳を澄ませていたノグは沈黙を破った。



「…わかった。愛里紗には言わない。約束する」



ノグはこの件に関して目を瞑る事に。
咲はノグのひとことが届くと、充血している右目から一粒涙をポロリと流した。



「ありがとう………ノグちゃん…」

「アタシは駒井さんの過去を知らなかったから、強く責め立てちゃって…。ごめんね」


「ううん……」

「でもね、愛里紗に真実を知られる日が来たら、必ず自分の口から説明するんだよ。これだけは約束して」


「……うん。わかってる。ノグちゃん、無理なお願いを聞いてくれてありがとう」



咲はノグに翔の存在を秘密にしてもらうという約束を交わすと、安堵するあまり肩を震わせて泣いた。

ノグは咲の心情を察し、スカートのポケットから取り出したハンカチで咲の瞳から溢れる涙を拭いた。