「嫌な思いをさせたい訳じゃない。愛里紗の事は大好きだし、虫がいい話かもしれないけど、これからも友達でいたいと思ってる」

「………」


「それに、先日渋谷のカフェでノグちゃんも聞いてたでしょ。翔くんがノグちゃんに向かって「あいつは……」って。翔くんは私が隣に居ても、感情をむき出しにするくらい愛里紗が気になって仕方ないの。……もう、その時点で私の恋は玉砕してるの。片想いしてる人を何年も何年も追いかけてる。決して実る事のない恋を必死に繋ぎ止めているんだよ」

「………」


「……酷いでしょ。情けないでしょ。カッコ悪いでしょ。でも、これが私という人間なの。欲張りだから大切なものをひとつたりも手放せないの」

「………」


「愛里紗に翔くんの存在を隠し通すのが辛くて苦しいの。………ねぇ、ノグちゃん。私どうしたらいいかな…。どっちも比較にならないほど好きなんだよ……」

「………駒井…さん」







ーーもう、一時間くらい経ったのだろうか……。

その間、店内の客は転々と入れ替わり、空席が目立つように。



ノグは愛里紗ばかりに焦点を当てていたせいで、同じく翔に想いを寄せている咲の事まで気が回らなかった。

翔と咲のデートを目撃したあの日から、愛里紗の気持ちばかりを心配していたから。