「愛里紗と翔の関係……、知ってたんじゃない?」



ノグは咲の表情を伺いながら、落ち着いたトーンで話し始めた。
それは、色んな意味がギュッと濃縮された言葉。

咲はピンポイントな質問に対して身体を震わせながらも素直にコクンと頷く。



聞きたい事が山ほどあるノグ。
不安に溺れている咲。

小さなテーブルを挟んだお互いは、それぞれの想いが交錯している。
テーブルに置かれたままの紅茶を口にする事もなく、2〜3分ほどの沈黙が続いた。



「愛里紗には言わないで。翔くんの事…」



沈黙を破った咲は、恐る恐るとした口調で伝える。
これが今の精一杯の想いだった。



「お願い。ノグちゃん… 」



まるで人形のような大きな瞳から涙がこぼれて顎に滴らせながら、ノグの瞳を見つめて心情を訴えた。

だが、ノグは愛里紗の想いが頭の片隅にあり、咲の意向を聞き入れる事が出来ない。



「…いつから愛里紗と翔との事を知ったの?」



咲は少し言い渋らせるかのように口を結び、シュンと小さく背中を丸めた。

現実からは逃げられない。
覚悟を決めて再び顔を上げると、涙いっぱいのままノグと目を合わせた。



「それは…」

「それは?」



ノグの無意識に力強くなる口調と目力が怖くてつい口籠もってしまい、発車したはずの気持ちはブレーキがかかり気味に。

だけど、翔の件を黙認してもらうには、目の前のハードルを飛び越えなければならないと思った。