ノグも咲も、翔が言った『あいつ』とは誰の事を指しているのか判明している。
咲はテーブル下で拳を作り、ノグはフッと表情を緩ませる。

翔はハッと我に返ると、目線を落として何事も無かったかのように振る舞う。



「いや、何でもない。……またな」



ノグは再び背中を向けて、自分の分の会計を済ませてから店を出て行った。


咲は潤んだ瞳から涙がこぼれ落ちないように唇を強く噛み締め。
席にストンと腰を落とした翔は、表情を隠すように手で顔を覆った。





咲、ノグ。
そして…翔。


愛里紗は心から大切にしている三人に予期せぬ事態が訪れていた事を知らぬまま、少しずつ心の距離を縮めている理玖と別の場所で平穏に笑い合っていた。