「…ごめん、もう帰る。じゃあね」



ノグは隣の椅子に置いていた荷物を手に取り、やりきれない想いを抱えながら二人と目を合わさぬまま席を離れた。


二人をテーブルに残して、ゆっくり二、三歩歩くと……。



バンッ……

ガタッ……



翔は両手をテーブルに強く叩きつけて椅子が倒れそうなほど勢いよく席を立つと、ノグの背中に向かって声をあげた。



「あいつ……は………」



翔は隣にいる咲を忘れてしまったかのようにそう言った。
溢れんばかりの想いは歯止めが効かない。

すると、ノグは翔の方へと振り返り、咲は俯いたままクワッと目を大きく見開いた。



翔は声がひっくり返りそうなほど力強く言った言葉…。

それは長年の時を経ても決して忘れる事のない、初恋相手の彼女の事を指し示していた。