夏期講習の最終日も理玖と一緒に帰宅。
「いよいよ明後日から学校だね」
「明日から毎日愛里紗に会えなくなるから、超寂しい」
「………」
「急に黙るなよ」
よくもまぁ次から次へと甘ったるい台詞が出てくるなぁ、なんて思う。
『じゃあ、プレゼントのお礼はキスでいいよ』
実はあの日から調子が悪い。
自分でも無意識のうちに唇に目を奪われてしまう。
一度はキスをした仲。
だから、唇の感触をリアルに思い出してしまう。
「理玖はこのままずっと塾に通うの?」
「とりあえず塾に通い続けて、少しずつ将来の夢を考える」
「ふーん。私と違って先々の事をちゃんと考えてるんだ」
「当たり前だろ………ってか、あっ…あのさぁ」
「なぁに?」
「さっきからマジマジと俺の顔を見てるけど、顔に何かついてる?」
本人からまさかのご指摘を受けた途端、ハッと我に返った。
ヤバ………。
理玖の唇を一点に見ていたのがバレちゃったかも。
理玖から目線を外して俯いた愛里紗は、熱くなった顔を手で覆い隠しながら答えた。
「だっ……、大丈夫!」
「………?」
動揺していたせいか、思わずトンチンカンな返事に。
「…まさか、授業中に寝ていた時についたよだれの跡がまだ口元についてるとか?」
「ちっ、ちがうよぉ。もー、何でもないってばぁ」
平穏に過ごしている私達がそういったやり取りをしている最中。
別の場所では、今後の運命を揺るがす大事件が起こっていた。