咲は店内のBGMを耳に入れながら、震える手を落ち着かせるようにテーブルの下でさすっていると、翔は先に沈黙を破った。



「駒井さんって、地元この辺?」

「あっ…、うん。私は生まれて此の方、街を離れた事がないの」



二人はまるでお見合いのようによそよそしい。
翔は無表情のままハート型にラテアートされたコーヒーを口にする。



「駒井さんじゃなくて……。これからは咲って呼んで欲しいな」

「……あぁ」



まだ私に無関心かもしれないけど、もう恋人だから小さなワガママくらい言ってもいいよね。





翔くんは告白を受け入れてくれたけど、実は私の事をあまり知らない。
告白直後に渡したメモに名前と連絡先を書いた。
彼が知ってる情報はきっとその程度。



恋人だけど、片想い。



ただ、中学生の頃から三度に渡って告白したから、私の想いは充分に伝わってるはず。
恋人になってくれた理由は分からないけど、私を彼女として受け入れてくれた。



最初は興味が無いかもしれないけど、少しずつ距離を縮めて二人で愛を育んでいこうね。

私が大切にする。
翔くんを幸せにしてあげるからね。



咲は長年に渡って思い続けている翔と交際をスタートさせて幸せ絶頂期のように見えるが、愛里紗のアルバムを見たあの日から心に大きなしこりを抱えている。