理玖は持っているボタンをギュッと握りしめて反転すると、口元を緩ませながら愛里紗に拳を向けた。
「これ、制服の第二ボタン。お前に持ってて欲しいから先にとっておいたんだ。……やる」
「あっ、うん。…ありがと」
制服の第二ボタンが特別なものという事は知っていたけど、彼がどんな気持ちでボタンを手渡そうとしたかまではわからなかった。
愛里紗は理玖の拳の下に右手のひらを受け皿のようにして差し出し、ボタンを受け取ろうとする。
だが、理玖はボタンと共に愛里紗の手を包み込み、そのままグイッと自分側へと引き寄せた。
……と、次の瞬間。
理玖の唇と強引に手を引かれた愛里紗の唇が初めて重なり合った。
それが、あまりにも一瞬で。
ドキドキとか緊張する間も一切無くて……。
目を閉じる事も無く、ただ不意に唇だけが重なっていた。
いつもより彼の香りがより身近に感じる。
唇がそっと離れた後も、一瞬何が起こったかが分からないレベルに。
今までキスの予兆はなかったけど、今日の理玖はいつになく強引だった。
唇が重なったのは、2~3秒程度。
頭が真っ白になっていてよくわからなかったけど、実際は想像以上にあっと言う間だったのかもしれない。
これが私のファーストキス。
卒業式を終えたばかりの私の初めてのキスは、甘い甘いものではなくて……。
何故かほろ苦い涙の味がした。
だけど、私達はその日を境に連絡を断ち、卒業式のあの日以降一度も会う事はなかった。