あれ………。
咲のバイト先にモデルのようなイケメンがいるって事は、ひょっとしたら咲は彼氏と同じ職場で働いてるのかな。
だから、ずっとあの店で働きたがってたの?
もしそうなら、職場に大好きな彼がいるから仕事もはかどりそう。
愛里紗は咲を羨ましく思いながらも、手元の時計をチラッと確認。
16:32
ヤバっ!
早く電車に乗らないと上り電車はラッシュの時間帯に差し掛かっちゃう。
咲の事を気にしてる場合じゃないじゃん。
その時の愛里紗は、印象的な香りが自然と足を引き止めた原因について追求しないまま駅に向かった。
すれ違ってたのに気付かなかった。
足が止まったのに引き返さなかった。
長年の日々に記憶が埋もれてしまい、すっかり忘れてしまっていた。
あの懐かしい香り。
『泣いてる顔より、笑った顔の方が好きだよ』
恋に焦がれた彼の香り。
……そう、恋の香りを。