愛里紗は再び前方に目を向けて歩き出し、ビルから七メートルくらい離れた。

ーー次の瞬間。



チリン…


「ありがとうございました」



レストランのドアベルと共に男性従業員の声が耳に飛び込んだ。
店のドアが開いた瞬間、ふわりといい香りが鼻の奥へと通り抜ける。



それは、飲食店の香りではない。
どこかで嗅いだような、とても懐かしいような優しい香り。



愛里紗はその気になる香りに不思議と足が引き止められた。
香りの元を辿るように店の方へ目線が吸い込まれると、店から出てきた女性客二人組はキャーキャーとはしゃいでいる。



「ねー、さっきの従業員絶対モデルだよね!超絶イケメンだし背が高いし」

「私も同じ事思った!女性誌の表紙を飾れそうなくらい、いい男だったよね~」


「でも、笑顔だったらもっといいのに…」



街の景色など視界に入らないほど話に集中している女性客は、従業員の噂話をしながら立ち止まっている愛里紗の横を通り過ぎて、駅方面へと向かって行った。