私には翔くんの忘れられない人が誰だか判明してる。

それは、小学生時代の卒業アルバムをある人から見せてもらったあの日に翔くんの過去を知ってしまったから。



やっぱり、こんな質問しなきゃ良かった。



後悔の念に苛まれている咲は、怖々としながら翔に目線を向けると…。
翔は寂しそうな瞳で頬杖をつきながら、降り注ぐ日差しの窓の向こうの景色を眺めていた。

まるで、いま自分が一緒にいる事を忘れてしまっているかのように……。



翔くんはまだ彼女の事を忘れていない。
だから、恋煩いのような表情や仕草一つ一つが嫉妬心に溢れ返っている。





結局、彼の口から『忘れられない人』について語られる事はなかった。




ーー帰り際。

夕日に向かって前を歩く翔の後ろを小走りで追いかけた咲は、翔のTシャツの裾を無言でギュッと掴んだ。
風船のように揺られている気持ちを、この手で繋ぎ止めるかのように……。



本当は手をつなぎたかった。
でも、今は裾を掴む以上の欲は叶えられない事を知っている。