恋人としてスタートさせてから同時に進めていたはずの時計は、いつも私だけが先回りに。
この一ヶ月間で彼の心に少しでも変化が生じているのだろうか。

それと同時に確かめたい事がある。
私の予感に間違いなければ、事態は想像以上に深刻に。



咲はコーヒーカップの取っ手をギュッと強く握りしめてから、口を開いた。



「翔くん、ちょっと聞きたい事があるの」

「何?」


「数年前になるけど…。私が最初に告白した時の事を覚えてる?」

「ゴメン。昔の事はあまり…」


「あっ、うん。…そっか」



彼があまりにも正直過ぎてショックを受けた。
合計三回も告白したのに、あまり覚えてないなんて…。



でも、一番最初の告白は三年前だから覚えてなくても仕方ない。
今まで告白してきた女の子は、きっと私一人だけじゃないはずだし。



咲は気持ちを切り替えると、話を核心へと迫らせた。



「翔くんが最初の告白を断った時、私に『忘れられない人がいる』って言ったの」

「…あぁ」


「それで…、翔くんの忘れられない人って、どんな人だったのかなぁと思って」



気になる事を聞いたところまでは良かったけど、返事を聞くのが怖い。

次に出てくる言葉は私にとっていい事なのか、それとも悪い事なのか。
彼の心が閉ざされている分、不安に溺れてしまう。



咲は複雑な胸中のまま、手のひらで包んでいるコーヒーカップに目線を落とした。



…だが、7、8秒経っても翔からの返事は届かない。
時間経過と共に不安は膨らんでいく一方に。