それから二人は普段通りに鯉の餌やりをして、幸せな時間を満喫していると…。



ビュウッ……

再び強くて冷たい風が私達二人の身体に吹き付けた。
思わずブルブルっと身震いがする。



今日はもう何度目か分からないほど、冷たい風はやって来る。
ひょっとしたら、波のようにはためく風が暖かい春風を押し上げているのかもしれない。



「寒っ!」



愛里紗は凍えるような寒さに耐えきれず、腕を組み身体を縮こませながら、ブルっと身体を震わせた。

すると、その様子を見ていた翔は、愛里紗がプレゼントしてくれたばかりの手袋の左手側だけを脱ぎ、氷のように冷たくなっている愛里紗の左手に手袋を差し込んだ。



「えっ……、これっ!」

「この手袋、結構温かいよ」



次に手袋を脱いだ方の左手で愛里紗の右手をギュッと握りしめて自分のコートの上着の小さなポケットに一緒に押し込み、少し照れ臭そうに言った。



「これなら二人とも寒くないよ」

「うん……。あったかい」



彼は本当に優しくて。
学校では無愛想気味なのに、いつも私にだけ特別な笑顔を向けてくれて。
毎日傍にいてくれて、特別で幸せな時間を与えてくれる。



ポケットの中でつなぐ手の温もり以上に、私のハートは温もりに満ち溢れていた。



大好きが止まらない。

初恋が彼で良かった。
彼を好きになって良かった。


谷崎くんと過ごしたここ数ヶ月が毎日毎日幸せで、指先から高鳴る鼓動が聞こえちゃうんじゃないかと思うくらい、一生分の幸せを手に入れたような気分に。