「あ〜あ……。あーりんはチョコをあげる彼氏がいて羨ましいよ」
ノグは溜息交じりに頬杖をつきながら私とミキに向かってそう言った。
普段は荒い口調で男っぽい面がある彼女だけど、中身は至って普通の女の子。
私と谷崎くんの恋が上手くいってから、『私も彼氏が欲しいな』なんて、何度も羨ましそうに呟いていた。
「はい!コレは私から」
ミキは自分の席から持ってきた手提げをガバッと広げて、ノグと私に手のひらサイズの小さな包み袋に入っている手作りチョコを順番に渡した。
ミキからの思いもよらぬプレゼントに、ノグは目を輝かせながら喜んでいる。
「うっそ!ありがと〜。アタシ、チョコとか全然用意してないんだけど」
「いーの。いーの」
「ミキ、ノグ。私からもあるよ」
愛里紗は席に戻ってランドセルを開き、昨日母と一緒に作った二人分のチョコクッキーが入っている包み袋を出して二人に渡した。
「やば。チョコを用意していないのは、アタシだけか。もらってばっかで悪いね」
「じゃあ、ホワイトデーにヨロシクね」
「ホワイトデーは三倍返しだよ~」
「アタシは男子かいっ!」
クスクスと笑いながらチョコを交換している私達を、羨ましそうに遠目から見ている男子。
義理チョコを待っていたのだろうか。
だけど、チョコを渡す男子は一人と決めている。