それまで感情の渦に巻き込まれていた愛里紗だが、翔の優しい表情を見た瞬間、全身の力がフッと抜けた。
「えっ………」
愛里紗は聞き間違いじゃないかと思い、聞き返した。
だが、翔は無言でコクンと頷く。
「俺、お前が転校してきた時から気になってたんだ。話してみたいなって思った時、ちょうど神社に来てくれて……」
うそ…。
私と同じ。
愛里紗は信じられない気持ちに包まれながらも、震える唇を手元で押さえながら翔の話に耳を傾ける。
「気付いたらいつも目で追ってた。でも、それに気付いたのはつい最近だけど…」
「谷崎くん…」
翔の気持ちが次々と明かされていくと、愛里紗は緊張の糸がほぐれてしまったせいか、瞳に溜まっていた大粒の涙が滝のように頬を伝った。
すると、翔はオロオロと戸惑う。
「泣くなよ」
「…ゴメン」
「お前が握ってくれたおにぎり、めちゃくちゃうまかったよ。…マジで」
「…うん」
人生で最も幸せな瞬間なのに涙が邪魔して視界がぼやけている。
好きな人に思いが伝わるって、本当に幸せな事なんだね。
翔は号泣している愛里紗にオロオロとする。
ほうきとチリトリを地面に置いて、ズボンのポケットをガサゴソと漁ってみたが、ハンカチは見当たらない。
涙を拭うものがないかと考えた結果、ジャンパーの袖を伸ばして愛里紗の涙を拭き始めた。
「泣いてる顔より、笑った顔の方が好きだよ」
と言って、袖口からフワリと香りを漂わせた。
彼と結ばれたこの瞬間、どうしようもないほど嬉しくて幸せで、溢れんばかりの涙が止まらなかった。
こうして、私達二人はようやく互いの気持ちが繋がり、クリスマスイブの日に恋人として始まりを迎えた。