「ごめん、寝てた?」


奏がドアノブを握って立っていたから。



「奏くん、ごゆっくり〜」


なんてお母さんが後ろから声をかける。



私が状況を理解できないでいると、



「今、いい?」

奏が先に口を開いた。



「あ・・・うん・・・」



奏は部屋に入るとゆっくりとドアを閉めた。

とくに座るわけでもなく、その場に立っている。



「明日、試合来てくれるんだってな」


「あ、・・・うん」


「明日さ、絶対勝つから。だから、俺のこと応援してよ、鈴」


「えっ、」



「俺のこと、ちゃんと見てて欲しい」

 

「っ、・・・・・・わ、わかった」



あまりにも真っ直ぐ、真剣な瞳で見つめてくるもんだから挙動不審になってしまう。



「それで、勝ったらさ・・・、俺の話、聞いてくれない?」


「えっ?」


「だめ?」


「いや・・・、いいよ。・・・私も話したいことあるから」


「そっか、よかった」



そう言って、奏は安堵の表情を浮かべた。



「じゃあ、今日はそれだけだから。明日頑張るわ」


「うん、頑張って・・・」


「じゃあな」と笑顔で部屋から出て行く奏をできるだけ平然を装って、見送った。