瞼に光を感じ、目を覚ましたフローラは驚いた。クロードにララをお願いしたのは、まだ午前だったはずだが、すでに夕日が差している。

「!」
「あぁ起きたか」

 ベッドの脇に、レオがいた。仕事を持ち帰ったのか、何か書類をたくさん広げている。

 レオはアルノルド殿下の補佐として、本格的に公務に参加し始めていた。国内外に『次期国王は王太子であるアルノルドである』ということを知らしめ、王太子と第二王子の仲は良好で、しっかりと王太子を支えるべく動いているとアピールしている。第二王子派の貴族達も黙らせ、アルノルドの治世に余計な文句が出ないよう、第二王子としての公務に励んでいるのだ。

 その上、魔法使いや魔女達のイメージアップを図る為に魔石を国外へ販売して国の独自利益を上げたり、魔物との共存事業の一環として知能の高い魔物と契約魔法を結び、力仕事などの公共事業を手伝ってもらう事業も立ち上げている。
 
 色々と多忙を極める第二王子だが、ここではただの夫、ただの父親である。

「レオ様……ララは?」
「ララは遊び疲れて昼寝している。この時間まで寝たら、また夜が寝ないかもしれないが……」

 苦笑しながらレオが言った。夕方までララを寝かすのは正直微妙だ。だが、普段からあまり眠らない彼女の睡眠を妨げても、その後の癇癪を思うと、起こすのを憚られる気持ちもわかる。フローラもレオと一緒に苦笑するしかなかった。

「……全く力になれずすまない」
「いいえ。私もたくさん眠れてスッキリしました。それに、お父様も侍女達も助けてくれていますから」

 今日のクロードのように、レオもララに振り回される役を買って出てくれることもある。特に深夜は「フローラは寝てていい」と奮闘してくれる時もあって、結構頼もしい。王子妃としての公務も最小限にとどめてくれていて、フローラは育児に専念できている。

「フローラも疲れているな」
「レオ様」

 ベッドから起き上がったフローラの目の隈を、レオが優しく撫でた。ここ数ヶ月、フローラはまともに眠れていなかった。今日は久々にゆっくりと眠れたので、スッキリしているのだが、隈はなかなか治らないようだ。

「すまない」
「ふふ。あやまってばかり」 

 レオが眉毛を八の字に下げている姿が可愛くて、フローラはくすくすと笑った。久々によく眠って気分がいい。

「何か私にできることがあればなんでも言ってくれ。言われなくてもできるようにはなりたいのだが」
「そうねぇ。何がいいかな」
「そうだ。もう少し眠るか? 今夜は私がララを」
「ううん。もうたくさん寝ましたから。それより──」

 フローラはララが寝ている間、レオとの時間を大切にしたいと思った。
 ここ最近はフローラが手が離せないことが多いばかりか、レオも公務で忙しく全く二人でゆっくり出来ていない。

 ララのお世話で気を使う余裕がないせいか、フローラは少しずつレオにわがままも言うようになってきた。最近分かってきたのだが、そういうフローラの小さなワガママを言うと、レオはとても喜ぶのだ。
 さて今日おねだりをするのは。

「──」
「!」
「だめ、ですか?」

 上目遣いでそう言うと、レオはとても嬉しそうに笑う。フローラも久々に柔らかく笑った。

 夕日が差し込むベッドの上。
 第二王子とその妃は、仲睦まじく、二人微笑み合いながら、お互いの唇をそっと合わせたのだった。





END