媚薬を盛って一夜限りのつもりだったので、溺愛しないでください!



「で? そろそろご説明していただきたいのですが?」
「なんだ? 公務が終わったのなら私はすぐフローラの元に戻りたいのだが?」

 どうしてこう王族の皆様は、腹黒いオーラを放つのだろうか。自分が女性なら、こんなに執着深い腹黒夫はごめんだ。そんなことを思いつつ、バルドは今日こそ詳細を聞かねばとレオを呼び止めた。

 レオナルドの私室にフローラが寝泊まりするようになって一週間。レオナルドはわずかでも時間があれば、私室へと向かいフローラと過ごしてきた。公務中は一分一秒が勿体無いと言わんばかりの形相で、徹底的にスピード勝負で片付けていく。

 おかげで内乱で混乱していた公務の一部がすっきりと片付いたのだが、バルドがレオナルドとゆっくり話す機会がなくなっていた。
 だが、バルドは、あの日、黒猫の魔物クロードが言っていた、『レオナルドがフローラに媚薬を盛られた』話をはっきりとさせておきたかった。宮廷医の話では、フローラが妊娠しているのは間違いない。だとしたら、本当にレオナルドの子どもなのか、そして媚薬を盛られたことは事実なのかはっきり聞かなければならない。そして予期せぬ結果であるならば、フローラを人知れず消すことも視野に入れねばならない。

 レオナルドの様子からして、妊娠は喜ばしいことなのだろう。だとすれば、魔女との間の子であることをよく思わない連中への対処を考えなくてはならないし、万が一フローラを妃にと望むのであれば、その反発に備えた対策もせねばならない。

(頭が痛いが、今日こそはっきりさせなくては……!)

 ここで呼び止めなければ、いつも通りフローラの元へ走って帰るのだろう。だが、今日ばかりはレオナルドを問い詰めることにした。

「フローラ様とお腹の子のことです。その……お腹の子は本当に殿下の子なのでしょうか?」
「何?」

 ギロリとレオナルドがバルドを睨んだ。しかしバルドは怯まない。

「殿下が森を離れ、数ヶ月経過しています。そして殿下があの森にいたのは数日。他にも男を連れ込んでいた可能性は?」
「それは……ない」

 レオナルドは、苦しげに目を細め、拳を握りしめた。フローラは誰かを家で手当したのは自分だけだと言っていた。その言葉を信じたい。

「殿下はフローラ様を妃に、とお考えなのですね?」
「あぁ。再会して、もう手放したくないのだ。腹の子が誰の子であろうと、私の子として育てる」
「それは……」

 難しいだろう。なぜならば、王族の子供は皆、金色の瞳をしているからだ。この国で金色は王族の証。その瞳を携えて産まれなかったとしたら、フローラも子どもも蔑まれ王宮にはいられないだろう。

「もし、金色の瞳ではなかったら、私は王籍を外れてもいい。身勝手なことだとは思うが、フローラと離れることなど、出来ない」
「!」

 主の決意表明に、バルドは驚いた。レオナルドは昔から第二王子だからと、色々諦めてきたからだ。第一王子が目立つよう、実力を隠し、力を抜いて過ごしてきた。本当に欲しいものも隠して第一王子のアルノルド殿下が選ばないものをわざと選んで。
 そんな彼がこんなにも力強く何かを求めるなんて、初めて見る姿だった。

「……分かりました。ご協力いたします」
「!」
「しかし、まずはフローラ様に確認してください。今後についてはフローラ様のご意志を尊重して差し上げることも大切ですよ」
「だが!」

 フローラがこれ以上森に帰ると言い出さぬよう、自分がもっと気を引きたい、妊婦には何が良いのか、女性は何が喜ぶのか、堰を切ったように恋愛相談をされ、バルドはわずか十五分でヘトヘトになったのだった。