ブランドもののロゴのついた黒っぽいジャージに、目深に被った灰色のキャップ。

ひょろりとした長身の割にいつも俯いているから、その人の表情は読み取れない。


「店内ご利用ですか?」

「いえ、持ち帰ります」


4月にバイトを始めてから半年間、わたしは毎回必ずこのお客さんの注文を聞いていた。

だからこの人が何を頼むのかなんて、いちいち聞かなくても分かる。


お持ち帰りでハンバーガーひとつ、値段は100円。


「ご注文、お伺いします」

「ハンバーガーひとつ、下さい」

「以上でよろしいですか?」


阿吽の呼吸で尋ねれば、微かに揺れ動く灰色のキャップ。

ほら、注文もいつもと同じ。


「お会計、100円になります」


トレーを差し出せば、彼が握りしめていた100円玉がぽとりとその上に落下する。

いつも同じものを食べて、飽きないのだろうか。


「レシートと番号札です。お掛けになってお待ち下さい、ありがとうございます」


流れ作業でレシートと番号札をトレーに乗せれば、男性は軽く頭を下げてそれらを掴み取った。


長く骨ばった指が、やけに印象的だった。



「またハンバーガー?」

「うん」


厨房で先輩がバーガーを作っているのを眺めていると、手持ち無沙汰になった森山さんが話し掛けてきた。