愛があなたを見捨てたとしても

心臓がドクンと嫌な鼓動を生み出したけれど、そんなものを感じさせないように、瞬時にバイトで培った笑顔を浮かべた。


「ああ、わたし1人っ子なので。母は仕事なんです」

「ふーん」


わたしの言葉に小さく頷いた彼は、コーンスープを口にしてから再び口を開いた。

「父親は」


この質問が来ることは分かっていたはずなのに、笑顔という仮面が早くも剥がれ落ちそうになる。


「父は、」


わたしの声は、想像以上に震えていた。

スプーンですくったスープに息を吹き掛けて冷ましていたハンバーガー男が、目線をちらりとこちらに向けた。


その、闇夜に紛れそうな黒の両眼に映るのは、

『母さんと仲良くするんだぞ』

『早く行って!この子に触らないで!』

幼少期にわたしが見た、家族が一堂に会した最後のひととき。


わたしを射抜いて離さないその目に、感情のない黒に、ゴクリと唾を飲み込んだ。



「帰ってきません」


でも、何事も無かったかのように笑顔を浮かべてそう言えば、

「そ、」

ハンバーガー男は無表情で相槌を打ち、黙々と肉じゃがを口に運んでいった。



余程美味しかったのだろう。

いつも買っていたハンバーガーは温かくなったまま、その存在は綺麗さっぱり忘れ去られていた。