ありがとうございましたー。

お決まりの挨拶をしてレジから離れれば、先にドリンクを作っていた森山さんが小さく声をかけてきた。


「あのお客さん、コーラ好きだよね」

「ね、いつも頼んでる」


週3回、夜にシフトを入れることが多いわたしと森山さんは、定期的に来る常連客の情報を共有し合うことが楽しみのひとつになっていた。


例えば、先程来店したあの女の人はいつもドリンクにコーラを頼む。

休日に来店する眼鏡のおじさんが頼むものはいつだってホットコーヒー、砂糖はふたつ。

月に1度来店する若いカップルは、海老カツバーガーとロースカツバーガーのセットを買って帰る。


でも、それよりもわたしの記憶に残っている常連客は。


「あっ来た、ハンバーガー男」

ふと、顔を上げてドアの方を見た森山さんがわたしに耳打ちしてきた。

くるりと振り返れば、数日前に見た時と同じジャージに身を包んだ男性が、今まさにお店の自動ドアをくぐろうとしているところで。


乾いた音を響かせるベルの音に負けじと、声を張り上げた。


「いらっしゃいませー」



そう。

わたしの記憶に強く残っている常連客は、バイト仲間に密かに“ハンバーガー男”と呼ばれている、この男性だった。