殺すように、愛して。

 言いたいことを一方的に告げ、俺の気持ちなんてきっと考えていない黛の吐息が近づく気配がした。抵抗するも虚しく終わり、その後すぐ、項に柔らかな感触が広がる。あっ、と先程よりも熱っぽい淫らな声が漏れ、咄嗟に手で口を塞ごうとしたが、その手を黛に捕らえられてしまった。扉に押しつけられていた手と一緒に俺の後ろで固定され、しかもそれを少しも解くことができなくて。噛まないとは言ったが、項に唇が触れている時点でいつでも噛める状態にあることに焦燥感を抱く。

 なんで、なんで、俺、項、黛に、キスされて。手の自由も、奪われて。唇が触れているせいで、体が変にビクつく。嫌だ。嫌だ。やめて。こんなの、予定にない。黛。

 オメガの急所でもある項に唇で何度も触れてくる黛の片手が、俺の制服の上を滑っていく。その手が、身を捩ろうとする俺のネクタイをするすると解いていった。え、あ、まゆずみ、と情けなく上擦った声が漏れたが、黛は俺の声を聞いても一切手を止めることなく、解いたそのネクタイで淡々と俺の両腕を拘束した。その間、必死に抵抗したが、不思議なくらい手も足も出ず、嫌な汗が吹き出しそうになる俺を煽るように、彼は唇のみで触れていたそこを舌先でなぞってきた。あ、やめ、とビリビリと電気の走るような感覚に力が抜けそうになる。

「噛まないよ、瀬那。噛まないからね。瀬那から許可もらうまでは噛まない。瀬那、いつでも言っていいんだよ、我慢しなくていいんだよ、瀬那。瀬那の覚悟が決まるまで、ちゃんとここ、守ろうね」