名前を出さなかったことに特に理由はないが、完全に黛のことを警戒し、脅威に感じているような彼はそう読み取ってしまったらしい。黛はおかしいと断言までしてしまっている。実際に俺も、口にはしていないが、おかしい、変わっている、とは思っているため、その言葉に頷けてしまう。黛は、変だ。そんな彼に首を絞められたり恥をかかされたりしても尚、懲りもせずに彼の指示に従う俺も、側から見ればおかしいのかもしれない。でも、彼に反発すれば、生死の単位でどうなるか知れないから、身を守るためにはそうするしかなくて。黛の指示を聞き入れ、それこそ、懸念してくれた彼の言うように、注意することしか俺にはできない。
「……気にかけてくれてありがとう。うん、黛、ちょっと、変わってる、よね。黛の用件が何なのか俺も分からないけど、あんまり待たせないようにすぐ戻って来るから」
黛に呼ばれたことを遠回しに肯定し、流れる空気に僅かな気まずさを感じながらカバンを持ち直して教室を後にする。当然だが、室内に黛の姿はなかった。ないから、彼のことをおかしいと言えたのだ。他の生徒がまだ残っていたとしても、その中に、容姿だけは誰よりも優れている黛に密かに憧憬を抱いているような人がいたとしても、本人がいないのであれば愚痴のようなものを言ってしまえる。彼らにとっては、黛は紛れもなくおかしい人なのだから。
もう帰宅した人や部活へ行った人が多いせいか、人通りの少なくなった廊下を歩く俺の足は、二階の三年教室と同じ階にある生徒会室に近づくにつれて徐々に重たくなっていった。足指の先まで鉛が行き渡っているかのよう。
「……気にかけてくれてありがとう。うん、黛、ちょっと、変わってる、よね。黛の用件が何なのか俺も分からないけど、あんまり待たせないようにすぐ戻って来るから」
黛に呼ばれたことを遠回しに肯定し、流れる空気に僅かな気まずさを感じながらカバンを持ち直して教室を後にする。当然だが、室内に黛の姿はなかった。ないから、彼のことをおかしいと言えたのだ。他の生徒がまだ残っていたとしても、その中に、容姿だけは誰よりも優れている黛に密かに憧憬を抱いているような人がいたとしても、本人がいないのであれば愚痴のようなものを言ってしまえる。彼らにとっては、黛は紛れもなくおかしい人なのだから。
もう帰宅した人や部活へ行った人が多いせいか、人通りの少なくなった廊下を歩く俺の足は、二階の三年教室と同じ階にある生徒会室に近づくにつれて徐々に重たくなっていった。足指の先まで鉛が行き渡っているかのよう。



