やっぱり、写させてもらったら返そう。コピーしてるのなら、コピー用紙の方と交換でもいい。こっちは黛が直接、きっと集中して板書したもので、俺が所有するべきではない。

 黛は俺に与えることに拘っていたが、無理やり与えられた俺は正直落ち着かなかった。黛は満足していても、俺は彼に甘えてしまっているようで情けなくなる。俺にも多少なりともプライドはあった。発情期のせいでもう随分と傷つけられてしまっているものの、まだ確かに残っているのだ。

 痛む右手首に喝を入れ、現在進行形で進んでいる授業そっちのけで、未だに続く、周りのチラチラとした視線からも逃れるために集中しようと試みる。形として手元にある板書を写すのは後にした方がいいのかもしれないが、今はただ、一分一秒でも早く、黛にルーズリーフを返したくて気持ちが急いでしまうのだった。結局は、今日の分も誰かに見せてもらわなければならなくなるのに。

 話も聞かずに内職に励む俺に先生は気づいているだろうが、何も指摘してこなかった。俺を置いて先々進んでいることに罪悪感でも抱いているのだろうか。もしそうだったなら、復習も兼ねてそれとなく教えてくれればいいのに。でも俺も、何も質問せずに大人しく座っているだけなため、お互いに、まあいいか、と若干なあなあになってしまっているのは否めなかった。

 居ても居なくても通常のペースで通常通り淡々と進んでいくだけの授業とその時間。俺の態度は、ずっと悪かった。これまで、発言はほとんどしていないが、それなりに真面目に受けていた授業だったのに、今日は完全に真面目に不がついてしまった。見ぬ見ぬふりで放置されれば、調子に乗ってしまうのは言うまでもない。それでこっそり通知表の評価を大幅に下げられてしまったとしても何とも思わないくらい、俺は黛のルーズリーフにがっついていた。